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従業員によるパワハラを防止する方法とは?企業が取り組むべき対応策やパワハラ防止法により課せられる法的義務を解説

企業の方は社内で起こるパワハラを防止するよう努めなければなりません。パワハラの発生により様々な責任問題が生じますし、労働環境も悪化し、自社の評価も落ちてしまいます。

そこでこの記事では従業員によるパワハラを防ぐために重要な方法、そして近年施行されたパワハラ防止の内容について解説していきます。

 

パワハラの実情

近年はハラスメントの問題が社会的に取り沙汰されることも増えました。

このハラスメントの中でも特に件数が多いのがパワーハラスメント(以下、「パワハラ」)です。

政府の調査によると、パワハラ関連の相談件数が特に多いということがわかっています。年々相談件数は増えているといわれており、嫌がらせや暴行を原因とする精神障害の認定件数も年間数十件はあるとわかっています。

 

こうした背景もあり世間の注目度も高まっています。しかしながら企業によるパワハラへの対策は十分ではないのが現状です。特に小規模の企業になるほど対策不十分である割合が高いとされ、従業員99人以下の企業では2,3割程度しかパワハラ対策の実施ができていないということがわかっています。

 

また、パワハラと一言でいってもその態様は様々で、セクハラを兼ねているケースも多くあるといわれています。実際、セクハラに関する相談件数も比較的多く、パワハラと合わせて対策を講ずべき問題といえます。

 

パワハラの問題点

パワハラに関してどのような問題があるのか、改めて認識しておきましょう。

 

犯罪の成立

パワハラは責められるべき行為であるものの、法的にグレーゾーンと捉えられる行為もあります。ただ、その逆にいきすぎた行為は犯罪として成立することもあります。

 

成立する可能性の高い罪としては以下が挙げられます。

 

  • 侮辱罪
  • 名誉毀損罪
  • 強要罪
  • 暴行罪
  • 傷害罪

 

軽くはたくだけでも暴行罪となり得ますし、パワハラは犯罪にもなり得る深刻な問題であることを理解することが大事です。

 

事業者も責任を問われる

パワハラは当事者間だけの問題にとどまりません。社内で行われたパワハラなら事業者にも責任が生じ得ます。具体的には「パワハラ防止法」違反となり、何らの対応策を取らないことを理由に違法と評価されることがあるのです。

 

そのため個人間の問題であると安易に捉えず、事業者が責任を問われる範囲内の問題であると捉えてその対策等を講ずるべきです。

 

またこうした事実が世間に知られることにより企業のイメージを落とし、信頼を失う可能性もあります。今後の事業活動に甚大な悪影響を及ぼすおそれもありますので要注意です。

 

事業者が知っておくべきパワハラ防止法の知識

「パワハラ防止法」と呼称されることが多いですが、その実態は労働施策総合推進法の一規定のことです。2019年に改正された内容がパワハラ防止法として呼ばれ、企業の規模に応じて段階的に適用されてきました。202061日からは大企業に、そして202241日からは中小企業にも適用されています。

 

そこでパワハラの防止は単なる社会的な風潮というように捉えるのではなく、法令ですべての企業に課せられた義務であるという認識を持たなくてはなりません。

 

企業に課せられる義務

労働施策総合推進法がパワハラ防止法の大元ですが、同法の条文では抽象的なことしか定められていません。具体的なことは厚生労働大臣の定める指針に従うとされていますので、企業の方は「パワハラ対策の関係法令および指針(https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/content/contents/000657103.pdf)」の内容を参考に取り組みを行うようにしましょう。

 

企業に課せられる義務規定の要点をまとめます。

 

義務詳細
パワハラに関して企業の方針を明示、従業員に周知させる
  • パワハラをしてはいけない旨明示
  • パワハラの具体例、内容、パワハラをはたらいた者に対し厳正に対処する旨明示
  • スローガンとしてのみならず、実効性を確保するため就業規則等にも定めを置く
相談に応じるための体制を整備
  • 相談窓口を設置し、そのことを従業員に周知する
  • 窓口の担当者が適切な対処をできるようにする
相談者が不利益を被ることのないようにする
  • 相談したことを理由に不利益を被らないよう体制を整え、そのことを社内に周知する
  • 相談者のプライバシーを保護する
適切な事後対応を行う
  • 事実関係の早期確認
  • 被害者へのフォロー
  • 行為者への処分の実施
  • 再発防止措置を講じる

 

企業に課せられる努力義務

前項の内容は義務です。必ず従わなければならない規定です。

一方で、努力義務として定められている内容が以下です。

 

  • パワハラ以外にも、各種ハラスメント(セクハラやマタハラなど)に関して一元的に相談できるように取り組む
  • パワハラの原因を取り除くための施策、コミュニケーションの活発化、研修の実施といった取り組みを行う
  • 現状把握のため、意見交換の機会を設けたりアンケートを実施したりする
  • 従業員のみならず、他社従業員や就活生、取引を行う個人事業主に関するパワハラ防止の指針を示す

 

これらは従わないからといって違法になるわけではありません。しかし取り組むことが望ましいのは明白ですし、努力義務までも果たせているかどうかが企業価値を左右することもあります。パワハラ防止に向けてできるだけ広範囲に取り組むようにしましょう。

 

企業が取り組むべき対応策の具体例

パワハラ防止法の内容も踏まえ、企業が取り組むべき対応策の具体例を挙げていきます。

 

コンプライアンス研修等の実施

コンプライアンス研修等を実施し、社内の従業員全員の意識を高めることも大事です。

管理者層のみが高い意識を持っていても不十分です。従業員全員が適切な知識を身につけ、「具体的にどのような行為がパワハラになるのか」「パワハラによりどのような問題が生じるのか」といったことを理解してもらうことが有効です。

 

ハラスメント相談窓口の設置

パワハラ防止法では、パワハラの相談に応じることができるよう体制を整えることが求められています。

そのためハラスメントに関する相談窓口を設置しましょう。ここで重要なのは、法令に抵触しないよう形だけの窓口を設置するのではなく、有意義なものとして窓口を機能させることです。しっかりと機能させることで、問題の早期発見、予防、そして迅速な事後対応にも繋がります。

 

実質相談ができないような、利用しづらいものとするのではなく、プライバシー等にも配慮して相談手法を複数認めましょう。例えば対面だけに対応するのではなく、メールやチャットを使った相談も認めた方が被害者救済のためになるでしょう。

また、相談内容や相談への対応件数などをデータとして蓄積すればパワハラ防止の効果測定も可能となります。

 

社内で窓口対応の体制を整えるのが難しいというときには、外部機関の利用も検討しましょう。第三者であるほうが被害者も相談しやすくなりますし、トラブルの予防のためにも効果的です。

 

パワハラをした従業員に対する処分規定の設置

スローガンを掲げるだけでは不十分ですので、パワハラをした従業員に対しては一定の処分を行う旨規定し、社内に周知させましょう。

 

処分の内容としては、例えば「減給」「出勤停止」といった措置が考えられます。ただし行為の内容と比してあまりにも重すぎる処分となってはいけませんし、判断基準もあいまいなものとならないよう注意しましょう。行為内容と処分内容が紐づくよう、できるだけ要件を明確にします。

 

パワハラ防止に向けて全社的に取り組もう

パワハラ防止策は社内の人員すべてを巻き込んで推し進めていくべきです。形だけのものとならないようにし、「パワハラを本当になくすためにはどうすれば良いのか」よく考えなくてはなりません。

パワハラ防止法に準拠した対応策を取るためにも、パワハラをした者への処分規定が法的に有効となるようにするためにも、一度弁護士に相談をすると良いでしょう。

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志田 一馨弁護士
志田 一馨Kazuyoshi shida

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