配偶者居住権とはどんな権利か| 亡くなった方の夫・妻が知っておきたい新たな権利
同居する夫や妻が亡くなったとき、現在住んでいる自宅の所有者となり住み続けるには、その建物を遺産分割などの方法によって取得しなければなりません。しかし建物の取得によって現金や預金の確保が難しくなり、生活資金が不足してしまうといった問題に直面することも起こり得ます。
このような問題は「配偶者居住権」の取得によって解決できることがあります。これは近年の法改正で新たに設けられたもので、被相続人の配偶者は特に知っておきたい権利です。
配偶者居住権とは「無償で住み続けられる権利」
配偶者居住権は民法という法律で定められ、次のように説明されています。
居住していた建物・・・の全部について無償で使用及び収益をする権利
「相続開始前から居住のために使用していた建物を、費用の支払いなく、使用し続けられる権利」とも表現できます。
この権利を取得できるなら、無理に建物の所有者になる必要はありません。所有権がなくても使用収益をする権利がありますので、住み続けられます。
これは、賃貸物件で住んでいる状況に近いとも考えられます。賃貸物件の賃借人は所有権を持たないものの「建物を借りて住むという権利」に基づいて暮らしを続けています。
配偶者居住権でも所有権とは別に住む権利を持つことになり、しかも賃貸とは異なり「無償」でその権利を行使することが可能です。
ただ、これは住まいを失うかもしれない被相続人の夫や妻への配慮として設けられた制度ですので、勝手に第三者へ貸し出すことまでは認められていません。権利の譲渡もできません。
なお、存続期間については制限がなく、その後一生の間権利を行使し続けることができます。
※民法第1030条但し書きの通り、例外はある。
配偶者居住権の存続期間は、配偶者の終身の間とする。ただし、遺産の分割の協議若しくは遺言に別段の定めがあるとき、又は家庭裁判所が遺産の分割の審判において別段の定めをしたときは、その定めるところによる。
有効活用できるシーン
配偶者居住権は取得しないといけないものではありません。
有効活用できるのは「相続財産に含まれる自宅と、その他生活資金になる財産の両方を取得する必要があるシーン」です。
相続人が配偶者1人であれば全財産を取得することになりますので、この権利について意識する必要はありません。また、その他の相続人との合意により配偶者が自宅および生活資金を取得できるのであればその場合にも意識しなくてかまいません。
問題となるのは自宅と生活資金の両方を確保することで相続人間のバランスが大きく崩れてしまうようなシーンです。
仮に①自宅と②預金、「1:1」のバランスで相続財産が構成されている場合、配偶者と子どもが法定相続分に沿って分割をするなら、①と②の両方は取得できません。自宅と預金の一部を取得することについて子どもが納得してくれれば良いですが、法定相続分は互いに1/2ずつですのでその通りに分けるといずれかしか取得ができなくなってしまいます。
しかし配偶者居住権を設定すれば、①を「自宅の所有権」と「自宅の居住権」に分けることができます。仮に所有権と居住権の価値が半々であるとすれば、全体としては次のように相続財産が構成されていることになります。
➀ 自宅:全相続財産の50%
- 所有権(全相続財産の25%)
- 居住権(全相続財産の25%)
② 預金:全相続財の50%
以上から、法定相続分に基づく遺産分割をしても、夫や妻は配偶者居住権+預金の半分を取得できることとなります(子どもは自宅の所有権と預金の半分を取得)。
配偶者居住権を取得する方法
配偶者でも、無条件に被相続人の不動産に居住する権利を得られるわけではありません。
下表にある要件を満たす必要があります。
要件 | 補足 | |
---|---|---|
法律上の婚姻関係がある | ・婚姻届を出していないといけない ・内縁関係では認められない | |
相続開始時点で住んでいた | ・自宅として使っていなかった物件に配偶者居住権は主張できない | |
次のいずれかの手続を行った | 遺産分割 | ・相続人間で話し合うこと ・相続人全員による合意が必要 |
遺贈 | ・遺言書を使った相続方法等の指定のこと ・被相続人が遺言書で配偶者居住権について言及している必要がある | |
死因贈与 | ・死亡をきっかけに効力が生じる贈与契約のこと ・生前に契約を交わしておく必要がある | |
家庭裁判所の審判 | ・遺産分割協議が整わない場合の公的な手続 ・裁判所が配偶者居住権の必要性を認めてくれれば取得できる |
取得できなくても「配偶者短期居住権」がある
民法改正によって配偶者居住権が設けられたのと同時に「配偶者短期居住権」も設けられました。
遺産分割協議で居住権の設定ができなかったとき、あるいは家庭裁判所の審判で認められなかったときでも、「6ヶ月間※」であれば配偶者は自宅に住み続けることができます。
※配偶者が亡くなったときから6ヶ月、または自宅を取得する人が確定したときから6ヶ月のいずれか遅い日まで居住できる。
そのため今後住み続けることができなくなったとしても、次の住まいを探す期間として一時的に自宅を使うことは可能です。いきなり追い出されることはありませんので、そのことも考慮して遺産分割協議を進めると良いでしょう。
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