残業代の請求を受けたときの対応|請求が拒絶できるケースや労基の調査について
ある日、従業員から「残業代を支払ってください」と言われたとき、会社としてはどのように対応すべきでしょうか。
様々な可能性を考え、この記事ではシチュエーション別に適切な対応を解説していきます。
残業代の未払いが招くリスクとは
まず原則として、従業員に残業として時間外労働をさせたのであれば、使用者たる会社には残業代の支払い義務が課されます。労働基準法にも規定されている基本的なルールです。
しかも残業代は、通常の賃金よりも1.25~1.5倍の割増になることが法定されています。
会社としては残業代がかさむほど負担は大きくなってしまいます。そのため違法にサービス残業を強いている職場も現実に存在しています。しかしながら残業代を支払わないと、次のような様々なリスクを抱えることになってしまいます。
- 刑罰の適用
労働基準法の規定に従い、「最大6ヶ月間の懲役刑」または「最大30万円の罰金刑」が科されます。 - 遅延損害金や付加金の支払い義務
従業員個人による民事上の責任追及により、未払いの残業代に加え、「遅延損害金」と「付加金」を支払わなければならなくなることがあります。
未払い分に対し年14.6%の遅延利息が遅延損害金として、最大未払い分の倍額の支払いが付加金として命じられるかもしれません。 - 労働基準監督官による処分
従業員による労働基準監督署への申告をきっかけに、是正勧告を受け、あるいは労働基準監督官により捜査、逮捕をされる可能性もあります。 - 社会的評価の下落
金銭の支払い自体が大きな問題にならない場合でも、残業代を従業員に支払っていなかったという事実が知られることで、取引先や一般消費者からの信用を失うリスクがあります。
残業代請求を受けたときの対応
残業代未払いを放置していると上のようなリスクを負うことになります。
そこで状況に応じて適切な対応を取る必要があります。その対応方法について説明していきます。
残業代未払いの確認を行う
従業員からの請求があったとしても、その請求が正当であるとは限りません。
不当に請求をしている可能性がありますし、勘違いや計算ミスに基づいて請求をしてくる可能性もあります。
そこでまずは未払いとなっている残業代がないかどうか、確認しなければなりません。
残業代未払いの確認が取れれば支払う
請求内容通りに未払いが確認された場合、請求に従い支払いに応じましょう。
会社にはその義務があります。
組織対個人の争いではあるものの、従業員側が弁護士に依頼して請求をしてくればパワーバランスも変わってきます。泣き寝入りを期待して放置するということは避けなくてはなりません。
逆に請求内容が正しくないことが確認された場合、反論しましょう。
とはいえ反論の内容も状況により様々です。次項で説明する事由に応じた対応を取る必要があります。
残業代の請求を拒絶できるケース
残業代の請求が拒絶できるケースはいくつかあります。実際に未払い分があったとしても拒絶できることがありますので、要チェックです。
残業中に必要のない作業をしていた
タイムカード上は確かに時間外労働をしていることが確認されたものの、その時間中に無駄なことをして過ごしていたのであれば、残業代を支払う必要はありません。
ただ作業内容につき残業時間中に行う必要性がないことを示すのは簡単ではありません。
少なくとも「一切の作業をしていなかった」「ずっと談笑をしていた」「パソコンでネットサーフィンをしていた」ということが客観的に明らかになれば、請求を拒絶することは可能です。
カメラやパソコン等の作業履歴などからその証拠が示せると拒絶しやすいです。
残業禁止命令に背いていた
「残業禁止命令」の有無も重要なポイントです。
この命令を出していたにもかかわらず残業をしていたのであれば、請求を拒絶できるかもしれません。
ただここでも注意が必要です。
残業禁止命令を出してさえいれば拒絶できるわけではありません。実質残業せざるを得ない状況を作り出していたのであれば、命令の有無関係なく残業代の支払いは必要です。
労働基準法上の管理監督者に該当する
労働基準法では「管理監督者」という立場が定義されています。職場において監督あるいは管理の地位に立っている人物のことです。
例えば人事に関する業務につき権限を広く持っている者、他の従業員と比べて大きな給与を得て他の従業員に対し指導的立場に立っている者、店舗を統括する立場にある者などです。肩書としては部長や課長、店長などが該当しやすいですが、肩書は直接の問題ではありません。実質的に管理監督を行う権限を持っているかどうかで判断されます。
よって、残業代の支払いを避ける目的でのみ店長という肩書を与えても残業代の支払い義務がなくなるわけではありません。
請求権の消滅時効を迎えている
正当に残業代請求権を持っていたとしても、それが大昔のことであれば拒絶できることがあります。
法律上、時効と呼ばれる制度が設けられており、一定期間権利を行使しない場合、債務者側がその権利の消滅を主張することができるのです。このことを「消滅時効の完成」と呼びます。
残業代の請求権については「3年」の消滅時効に係ります。
原則、民法では一般債権の消滅時効につき5年を法定しているのですが、賃金に関しては労働基準法で2年と定められています。しかし特例により執筆時点(2022年)では3年ルールが適用されています。
企業法務に強い弁護士に相談を
残業代の請求を受けた場合の対応方法や拒絶ができるケースなどを説明してきましたが、臨機応変に最適な行動を起こすためには、プロの意見を聴くことが大切です。
企業法務に強い弁護士と顧問契約を締結している場合にはその弁護士に相談をすべきです。顧問弁護士がいない場合には、実績のある、信頼できる弁護士を早期に探すようにしましょう。
特に請求者である従業員との対立関係が強く、訴訟を提起される可能性もあるような場合には早めに弁護士に依頼することが大切です。弁護士に依頼をしておけば、万が一訴訟にまでトラブルが発展しても対応してもらうことができます。
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